「魅力ある新型NISA」
新しい資本主義の実現に向けて、今年から新しいNISA制度が始まり上々の出足のようだ。欧米の金融先進国に遅れはとったものの、国民の資産形成を促し援助する評価すべき制度である。
将来のライフプランを考えるに当たり、預金のみの資産形成では不十分と考え、リスクを考慮しつつも投資信託等の有価証券を利用した資産形成を実行することが必要なようだと考える人がここにきて目に見えて増えてきたようだ。金融先進国であるアメリカやイギリスはいち早く資産形成の優遇策をとりいれ、個人金融資産の増加率において群を抜く実績を出した。
さて、我が国はどうであったかというと、先の2か国に比べ、十分とはいえないにしても、以前から資産形成を後押しする税優遇制度を取り入れてきている。
先ず年金制度においては、皆さんご承知の通り、アメリカの401K制度をモデルとした企業型及び個人型の確定拠出年金制度を2001年よりスタートさせた。
次に個人資産形成策として、イギリスで実績を上げた「ISA制度」をお手本とした日本版ISA制度、すなわち「NISA制度」を2014年から取り入れ、少しずつ改良しながら現在に至っている。ただ、残念なことに本場イギリスの制度に比べると非課税枠やその他条件が著しく物足りないというか、徐々に改善されてきたものの、お世辞にも利用者を満足させる制度とはいえなかった。ようやく本年度(2024年)に制度化された新しいNISA制度は金額面でも制度面でも大いに利用価値のあるものになったと評価されるので、金融庁の提供する資料を基に説明を加えてみたい。
1. 非課税保有期間の無期限化
従来は売却益に対する非課税優遇期間が保有期間5年以内のものに限るとあったものが何年の保有であっても非課税となった。
<浦田の独断解説>
NISA制度は確定拠出制度と同じく、主に若年者の将来の年金問題等の生活不安を払しょくするために投資信託等の有価証券を利用した長期積資産運用を促すための制度として作られたはずである。なぜ長期かというと、過去の市場の下落の後の回復過程を検証すると、分散投資した有価証券や投資信託であれば長期保有すればするほど(およそ10年以上と考える)元本割れの可能性は極めて少なくなるし、順調な場合は長く保有するほど利益は大きくなることがわかる。しかしながら現行の制度は5年間の保有期間内に売却しなければ利益にかかる税金の非課税優遇メリットを受けられないという制度になっている。ある人がNISA制度を利用して長期投資をするつもりだったのが、保有期間制限があるために、せっかくの優遇制度を使わなければもったいないとして、利益確定に走る結果、短期投資にとどまってしまいやすい制度であった。
それがこの度の新制度で保有期間を問わなくなることに改善された。じつに喜ばしいことだと思う。
2.口座開設期間の制限の撤廃
従来の制度では制限があったが恒久化されたことは、長期投資に対する国の本気度が伝わる。
3. つみたて投資枠と成長投資枠の併用が可能
従来の制度はつみたてNISAと一般NISAの選択制であったが新制度では併用もできるということになり、それぞれの事情に応じた投資計画の自由度が拡大した。
4. 年間投資枠の拡大
従来の制度では一般NISAが年間120万円であったものが成長投資枠では年間240万円に、つみたてNISA 40万円が積立投資枠では120万円と、大幅に投資枠が増えた。これは若年者の将来の準備のための支援策にとどまらず、日本国民全体の資産運用を積極的に促す大きな改革である。
以上述べたように、長く有価証券を利用した資産形成の提案、実践のサポートをしてきた私の目から見て、利用価値のある素晴らしい制度改革に拍手を送りたいと思う。
さて、最後に忘れてはならないのは肝心かなめの「投資教育」だ。利用者が正しい投資知識を身に着けて実行してこそ活性化するこの制度。個人型確定拠出年金(iDeCo)とも共通の大問題である。より良い投資知識を求める人々が我々のようなFPに巡り合える機会はまだまだ少ないのが現実である。
さりとて変動リスクをともなう「投資」について金融庁(国)が直接に教育するというのは、いろいろな意味でできることではなく、やむなく金融商品を供給する金融機関任せにしていると推察する。
しかしここにきて金融庁の肝いりで金融広報中央委員会が母体となって「金融経済教育推進機構」が設立された由。これからアドバイザーを募集して徐々に稼働する計画と聞いているが大いに活躍を期待したい。